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米国の経済的分断について

2024年10月15日
市場調査室 室長 チーフアナリスト
溝上孝

 

 先日アレックス・ガーランド氏監督の映画「シビル・ウォー」を観てきた。米国では今年4月に公開され話題となっていたことから大統領選直前のこのタイミングで鑑賞するのも話のタネになるかなと思った次第である。映画では冒頭から内戦がすでに起こっており(その経緯についての説明は無い)、戦場カメラマンと記者の視点から見た内戦のリアルが描かれており、見応えのある作品であった。アメリカ社会の分断ということが言われてすでに久しい。これには経済的分断と政治的分断があると思うがより深刻なのは前者だろう。なにはともあれ生きていかなければいけないからだ。

 貧富の差を客観的に示す指標にジニ係数というものがある。これはイタリアの統計学者コラド・ジニにより考案された所得などの分布の均等度合いを示す指標である。ジニ係数の値は0から1の間を取って、係数が0に近づくほど所得格差が小さく、1に近づくほどこれが拡大していることを示す。一般に0.5を超えると所得格差がかなり高い状態であって是正が必要だと言われている。経済協力開発機構(OECD)のデータによれば加盟国38か国のうちで米国はこのジニ係数が0.413(2022年)となっており加盟国中コロンビア0.548(2022年)、コスタリカ0.467(2023年)、メキシコ0.435(2022年)に次いで第4位である。またG7の中では米国が最も高い(所得格差が大きい)水準となっている。また米連邦準備理事会(FRB)による資料「2024年第2四半期 米国における世帯資産の分布状況」によれば所得階層の上位10パーセントの世帯が米国の富全体の66.7%を保有、さらに上位1パーセントの世帯が30.3%を保有していることを示している。逆に下位50パーセントの世帯はわずか2.5%を保有しているに過ぎない。凄まじい格差であり、これでは社会が不安定化するのは仕方がないであろう。

 米株価は足元で好調だ。ダウ平均、S&P500は連日最高値を更新している。ダウ平均は10月14日に43,000ドルの大台乗せ、またS&P500は年内に6,000ポイントを超えるのではとの予測もアナリストから出始めている。然しながら株価の上昇の恩恵を享受できるのは上記10パーセントの持てる者が中心で、このままでは米国の貧富の差拡大は今後ますます進んでいくことになる。

 RealClearPoliticsの最新世論調査(9月29日から10月13日)によるハリス候補支持が49.1%、トランプ候補支持47.2%と僅差の状況が続いている。富の偏在の問題点については大統領選の争点にはなっていないがいずれの候補者が勝利しても所得分配を重んじる政策に少しでも舵を切っていく必要にいずれ迫られるのではないだろうか。経済的分断だけで「シビル・ウォー」で描かれたようなディストピアが到来するとは思わないが早めに手を打っておいた方がいいに決まっている。

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