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中国経済の現状
2024年9月24日
市場調査室 室長 チーフアナリスト
溝上孝
中国南部の深圳で9月18日、日本人学校に通う10歳の男子児童が保護者と一緒に登校中に刃物を持った男に襲われて死亡するという痛ましい事件が発生した。また6月24日には江蘇州蘇州で日本人学校の下校中のスクールバスが、やはり刃物を持った男に襲われ日本人親子が負傷するという事件も起こっている。中国では2010年代に大規模な反日デモが頻発したが、これは尖閣諸島の領有をめぐる日中の対立を背景にして起こった極めて政治的な暴動であった。これに対して上記の事件は組織的なものではなく中国当局の説明通り、偶発的なもので容疑者単独の犯行であろう。ただ思うにコロナ禍以降の中国経済の低迷が事件とは全く無関係と言えないのではないだろうか。
中国経済は危機的状況にある。以前から不動産不況がフィーチャーされていたが、それに加えて足元では消費、生産、投資など主要経済項目の不振が際立つ。また物価指標からは中国経済がすでにデフレに陥っていることも窺える。小売売上高に関しては都市部と農村部のかい離も見られ(前者の方が消費減少)、またこれまで比較的好調であった外食消費の減少も著しい。財消費に関しては国内自動車販売が振るわず、外需を求めて輸出が急増しており、欧州など多くの国がこれに反発、電気自動車(EV)には貿易障壁が設けられつつある。また政府は不動産不況対策として、今年5月には売れ残ったマンションを買い取り、割安な価格で低所得者に提供するという政策を発表したが、買い取りの主体たる地方政府は土地使用権、並びに税収の減少で資金的な余力が乏しく目立った効果は今のところ見られない。更に、先ごろ将来の生産年齢人口の減少に備え、来年から法定退職年齢(定年)を段階的に引き上げる(男性:60歳→63歳、女性:50歳→55歳)ことが発表されたが、失業率の高い若年層からの反発も予想されるなど、政府の施策にはどうも統一感の欠如が否めない。本来であれば内需を刺激するべく大型経済対策を打って出るべきところであるのだが7月に開催された三中全会ではそういった議論があったということは一切聞こえて来なかった。むしろEVや新エネルギー技術などの産業支援に注力するという内容であり、結果として引き続き輸出ドライブに拍車がかかることになりそうである。
このような八方塞がりの中での唯一の救いは米国が金利引き下げに転換したことで、金融当局は人民元売りの憂いなく、景気浮揚のために政策金利を引き下げることが可能になったことだ。9月23日に中国人民銀行は14日物リバースレポ金利を10bp引き下げ、1.85%とした。追加金融緩和観測もあって上海総合指数は本日9月24日の本稿執筆時点で前日比3.30%高となっており、今年5月からの下落トレンドが一旦終了したようである。
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