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セブン&アイHD被買収、対内直接投資そして円高

2024年8月27日

市場調査室 室長 チーフアナリスト

溝上孝

 先週819日にセブン&アイ・ホールディングス(セブン&アイ)がカナダのコンビニ大手、アリマンタシォン・クシュタール社から買収提案を受けたとの報道があり、セブン&アイもこれをIR情報として公式に追認した。これを受けて同社株価は先週末終値比400円のストップ高となり、その後も株価は底堅く推移している。セブン&アイの時価総額は54,300億円、対するアリマンタシォン社の時価総額は7372300万カナダドル(=79,150億円)である。セブン&アイが開示したIR情報によると、現段階では法的拘束力のない初期的な買収提案とのことであり、またセブン&アイは小売業以外で金融・IT部門を傘下に持つことから買収のハードルは低くはない。しかし実現すれば海外企業による日本企業買収で過去最大規模になる見通しであり、投資銀行業界での注目度は高い。

 これまで外資による日本企業の最大の買収金額は、米プライベートエクイティファンド(PE)のベインキャピタルを軸とする企業コンソーシアムによる東芝メモリ(現キオクシアホールディングス)買収の2兆円である。今回はそれを上回る可能性が高い。(ちなみにアリマンタシォン社の社名の謂れであるが、フランス語で“アリマンタシォン”は「食品」を、“クシュタール”は「夜更かしする人」を意味するという。同社は1980年にカナダ モントリオール郊外で創業された)。 

 財務省が公表している2023年末の対外資産負債残高によると、対外直接投資(日本企業が海外に進出・M&Aなどにより現地企業を買収)残高307兆6920億円に対して対内直接投資(外国企業が日本において工場を建設・日本企業を買収)残高50兆5180億円であり、前者の金額が圧倒的に上回っている。これは残高(ストック)のデータであるが、収支(フロー)のデータも対外直接投資の金額が対内直接投資の金額を常時上回っている。セブン&アイの被買収金額が仮に現在の株式時価総額と同等のおよそ5兆円とすると、これが実現した場合には対内直接投資残高の約1割が上乗せされることになる。

 日本企業は2010年代の超円高を背景に海外進出を積極的に推し進めてきており、これが長期的スパンでの円安要因(対外直接投資を誘因とする外貨買い・円売り)として働いてきた。足元では7月後半以降円高が進んでいるものの需給要因(貿易・サービス収支の赤字)からくる慢性的なドル不足に改善の兆しが見られないのであれば、本件のような対内直接投資案件の積み上がりは過度の円安に対する歯止めとして作用することになるであろう。

 

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