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ソフトランディング?ハードランディング? 正念場を迎える米国経済

2024年7月9日

市場調査室 室長 チーフアナリスト

溝上孝

 これまで好調に推移してきた米国経済の減速を示す経済指標がここに来て相次いで発表されている。物価及び労働市場にそれが顕著に表れている。即ち、米労働省が発表している価格変動の大きい食品とエネルギーを除いた消費者物価指数(コアCPI)は今年1月3.9%(前年比)であったが4月3.6%、5月3.4%と低下傾向にある。また米商務省が発表するCPIより調査対象項目が広範な個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)のコア値は1月2.9%(前年比)であったが4月2.8%、5月2.6%となり、米連邦準備制度理事会(FRB)のインフレ目標である2.0%の水準に緩やかであるが徐々に接近している。

 労働省から発表される雇用統計によると5月の失業率は4.1%と2021年11月以来の高水準(6月に示されたFRBによる経済見通し4.0%を上回る)となり、平均時給(前年比)は1月のプラス4.4%から6月はプラス3.9%へと低下した。

同省から週次で発表される失業保険申請件数及び継続受給者数もこの数カ月増加傾向にあり、更に5月雇用動態調査(JOLTS)の求人件数は814万件で1月の874.8万件から大幅に減少している。米国内総生産(GDP)の7割を占める個人消費の減速はまだ顕在化していないが、物価高及び労働需給の緩和が遠からず消費マインドに対しマイナスに作用し始めるのではないか。

 筆者が注目している米国の景気後退判定指標に「サーム・ルール」というものがある。これは元FRBのエコノミスト、クラウディア・サーム氏にちなんで名付けられたものである。サーム判定指標=失業率の3カ月移動平均値―直近12カ月の失業率最低値、なのであるが、この判定指標が0.5%を超えると景気後退と判定される。失業率データを1959年までさかのぼって検証すると0.5%を超えたケースでは75%の確率で事後的に全米経済研究所から景気後退と判定されている。上述の通り最近の失業率の上昇により、サーム値は6月データ後で0.43%となっており、0.5%目前、仮に7月の失業率が4.1%以上であれば0.5%の閾値超え、景気後退と判定されることになる。 

 FRBとしてはコロナ明け後のインフレ上昇時に利上げの初動が遅れてしまったというトラウマが強烈な余り依然利下げに慎重のようだが、筆者は景気のハードランディングを避ける意味において現在の景気抑制的な金利水準の早急な引き下げが望ましいと考える。なおマーケットにおいても30日フェデラルファンド金利先物12月限は4.935%となっており(7月8日)年内2回の利下げが完全に織り込まれた状態だ。

 

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