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ドナルド・トランプ氏の支持層
2024年4月16日
市場調査室 室長 チーフアナリスト
溝上孝
トランプ前大統領が今年11月5日の大統領選挙で再選するかもしれないということで、「もしトラ」「ほぼトラ」、もう少し品の良い言い方では「トランプ2.0」などとメディアなどで取り上げられる頻度が増えている。日本人の感覚では、どうしてトランプ氏が米国でかくも人気があり、共和党内で他候補の追随を許さないような状況になっているのかという疑問を禁じざるを得ないのではないだろうか。
そもそもトランプ氏は4つの裁判(不倫相手に対する口止め料支払い、ジョージア州の2020年大統領選集計作業に介入、2021年米合衆国議会議事堂襲撃事件の首謀容疑、機密文書の持ち出し)の刑事被告人である。特に3つ目は警官1人を含む5人が死亡した前代未聞のクーデーターであり、米民主主義の根幹を揺るがす大罪だ。欧米では判決前の推定無罪という基本原則が浸透しているが、逮捕・起訴で有罪扱いされる日本でこのような人物に国家元首への道が開かれているなど到底あり得ない話だろう。
英ファイナンシャルタイムズやエコノミスト誌など欧州メディアでもトランプ氏に関する政治的な魅力?を説いた皮肉な論考、また「トランプ2.0」が招くグローバルな悲劇を強調する記事を目にする機会は多い。だが、なぜ「トランプ2.0」がそこにある危機として取り沙汰されるような事態に至ったのかを明らかにした論考を目にすることは少ない。
筆者は個人的に師事している龍谷大学経済学部教授の竹中正治氏にこの疑問をぶつけてみたところ、彼はジョージ・メイソン大学経済学部教授、タイラー・コーエン氏の著書「大格差(原題:Average is Over)」の論考を援用、「グローバリゼーションやITデジタル革命の影響で米中間層の賃金が二極化、中間層が瓦解したことにより、彼らが支持する中道派の勢力が退潮したこと」がそもそもの原因だと指摘した。
トランプ氏の岩盤支持層は白人・低学歴・ブルーカラーだと言われているが、ここで言うところの中間層はホワイトカラーを広く含む。技術革新、IT化によりこれまで主として比較的高賃金のホワイトカラーによって担われてきたオフィス業務が低賃金労働者へとシフト、またテレワークの進展により、安価な労働力供給が可能な海外にそういった仕事が流出、その結果米ホワイトカラーの退潮が著しいとのこと。
人間というものはもともとロー・クラスに所属している人よりも、ハイ・クラスからロー・クラスに転落してしまった人のルサンチマンは計り知れないという。既存の政治・秩序を破壊するかのようなトランプ氏の政治姿勢に対して、現状に不満を持つ「没落した中間層」が快哉を叫び拍手喝采を送る、トランプ信者にはそういった人が多いのではないか。
大統領選挙の結果は蓋を開けてみるまで分からない。2016年のヒラリー・クリントン対トランプの時も事前の予想はクリントン優位であったが結果はトランプ氏の勝利に終わった。米国人の良識を信じたいと思う。