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今後の日経平均を左右する半導体業界について
2024年2月20日
市場調査室 室長 チーフアナリスト:溝上孝
ここ数日来、半導体関連株の上昇に牽引される形で日経平均は史上最高値3万8,195円に接近している。
また米国ではGPU(画像処理装置)の設計を手掛ける半導体ファブレスメーカーのエヌビディア株が年初から約50%近く急騰、時価総額で先週アマゾン、アルファベットを立て続けに抜き去っている。エヌビディアの2023年10-12月期決算の発表は2月21日、今後の売上見通しによっては更なる株価の上昇が見込まれ、これが日経平均の史上最高値更新のトリガーになる可能性は高いと予想する。
今週は最近の半導体業界について筆者が思うところを述べたい。
日本の半導体メーカーは1980年代半ばに半導体メモリDRAMで世界シェアの約80%を占めていたが90年代後半パソコン普及時の対応を誤り、サムソン電子、SKハイニックスなどの韓国勢の後塵を拝することになり、2000年を境にほぼDRAMから撤退した(日立製作所とNECの合弁会社エルピーダメモリは2012年に経営破綻、最終的には米マイクロン・テクノロジーに買収された)。
その後は主要メーカーであった日立製作所、三菱電機、NECを母体とするルネサスエレクトロニクスはシステム半導体に舵を切ったものの経営が悪化、2013年に国策投資会社である産業革新機構の傘下となった(昨年全株売却)。当社と2017年に東芝から分社、NAND型フラッシュメモリを主力とするキオクシアの世界シェア(2022年)はそれぞれ16位、17位、両者合わせても売上高はサムソン電子1社の売上高の3割に過ぎない。
現在株価上昇の牽引役となっているのは東京エレクトロン、アドバンテスト、SCREENなどの半導体製造装置メーカーである。世界シェアは30%前後を維持、高い競争力・技術力を維持しながら健闘している。
半導体業界をめぐる環境は目下激変している。2020年以降新型コロナウィルス感染が拡大、世界的な半導体不足が起きたことで、経済安全保障の観点から世界中で半導体製造能力を自国で抱え込もうとする動きが激化した。
日本も例外ではなく政府は2021~2023年度の3年で約4兆円の補助金を確保、国内で半導体工場の建設ラッシュが続いている。例を挙げると、半導体の受託生産分野で世界シェア約6割を占める台湾のTSMCの工場を熊本に誘致(第1工場は今月開所、第2工場建設が決定)、キオクシア(四日市工場にてNAND型メモリの増産)、ラピダス(最先端ロジック半導体を2027年に生産開始を計画)、などがある。
かかる状況の中で筆者は以下の3点を問題提起したい。
1.80年代半ばに隆盛を保っていた日本の半導体業界であるが、先に述べたように現在の業界地位は低迷している。また国家プロジェクトとして支援してきたルネサスエレクトロニクスの場合も再建が必ずしも成功したとは言えない。業界全体として、このような事態に至った原因を真摯に検証した上で次のステップに進まなければいけないと思う。国家予算、すなわち国民の税金を投入するからには90年代の轍を踏むのは厳に避けなければならない。
2. ラピダスは2027年に最先端の2ナノ半導体の国産化を目指すとしているが、可能なのかということである。現状日本で生産できるのは40ナノ台までと言われている。2ナノ半導体は世界レベルでも量産の成功例はなく(TSMCでさえ量産化には至っていない)、40ナノのレベルから一気に最先端に挑むのは無謀ではないか?もし仮に国産化できたとして販売実績の無い新会社ラピダスから半導体を購入するファブレスメーカーは果たして出てくるのかということである。
3. 日本が官民挙げて取り組むべきは得意分野である半導体製造業及び材料の分野ではないだろうか?先に述べたように半導体製造装置メーカーは現在世界シェア3割を占めるが競合の存在によってそのシェアは徐々に下がっているということには危機感を覚える。
今年の世界半導体市場は過去最高の約87.5兆円と予想されている。さらに2030年には約149兆円、一説によると2045年、AIが行き着くところまで行った場合(シンギュラリティ)には600兆円を超えるという予測もある。
このビッグウェーブに上手に乗ることは将来日本の浮沈にかかわることであり、だからこそ政府は本腰を上げて半導体企業支援にハンドルを切った訳であるが、乗り方を誤ってそのツケを払うことになるのは我々国民である。この行方を注視すべきである。
※本レポートは情報提供を目的としており、投資を勧誘するものではございません。また、現時点での当社の見解・見通しであり、将来の値動きを約束するものでもありません。