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国際収支からみる構造的な円安要因とは

2024年2月13日

市場調査室 室長 チーフアナリスト

溝上孝

 

 財務省から昨年2023年の国際収支統計(速報値)が発表された。経常収支は20兆6,295億円の黒字となり、前年比9兆9151億円黒字額が増加している。これは石炭・石油・天然ガスなどの輸入価が昨年比大きく下落したことで、貿易収支赤字額が6割近く減少(9兆1,146億円)したことが主な原因だ。 

 それでは貿易収支が赤字なのに国際収支が黒字なのは何故だろうか。

 第一次所得収支が大幅に黒字(34兆5,573億円)であるからだ。

 第一次所得収支とは聞きなれない言葉であるが、その定義は「対外金融債権・債務から生じる利子・配当金の収支状況」であるが、要すれば対外債権から生じる利子・配当金などから対外債務によって生じる支払いを差し引いた金額である。日本の対外純資産額は418兆6285億円(2022年末)と1991年から世界第1位の地位を保持しており、ネットでは受け取る利子・配当金が圧倒的に大きい。 

 ここで注意を要するのは第一次所得収支の黒字はこの金額の全てが日本に還流してくることでは無いということである。すなわち受取の投資収益における債券利子や配当金、また直接投資収益における再投資収益は当然のことながら円転が発生しない、つまり為替市場には円買い需要は発生しない。 

 この日本に還流しない第一次所得収支(キャッシュフローベース)は約12兆円の黒字という試算もある。統計上のそれと比較して約22兆5,000億円も少ないことになり、結果キャッシュ・フローベースの経常収支は約1兆9,000億円(20兆6,295億円―22兆5,000億円)の赤字になってしまう。貿易収支の黒字=経常収支の黒字であった2010年代よりも以前と比較して円の需給構造が大きく変化したということは、国民レベルでは意外と知られていないのではないだろうか。

 さらに輸送・旅行・金融・知的財産権等使用料などのサービス取引の収支に関しても近年大きな変化が生じている。米大手テック産業に対するクラウドやソフトウェアの支払い急増に伴ういわゆるデジタル赤字の急増(円安要因)である。ネットフリックスやアマゾンプライムなどの動画配信料などもこれに該当する。これが昨年は約5兆5,000億円の赤字であるという(2024年2月8日付日本経済新聞)。一方で昨年は訪日外国人の急増により旅行収支は3兆4,037億円の黒字となり黒字額は前年比5.5倍に大幅に拡大(円買い要因)したが、それでもこれは前述のデジタル赤字で全て打ち消されてしまうことになる。

 デジタル赤字はAI利用拡大等により今後も増加していくことが予想されるが、インバウンドによる旅行収支の黒字は国内の人手不足・オーバーツーリズムなどの問題もあり現在の増勢には限界があるであろう。

 

 このように国際収支をめぐる需給構造を分析すると圧倒的に円安につながりやすいことが明らかになる。足もとのドル堅調には米利下げ思惑の後退以外にもこういった理由があることは間違いないであろう。

 

※本レポートは情報提供を目的としており、投資を勧誘するものではございません。また、現時点での当社の見解・見通しであり、将来の値動きを約束するものでもありません。