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財政規律と長期金利

2024年11月5日

市場調査室 室長 チーフアナリスト

溝上孝

 最近グローバルに長期金利が上昇傾向にある。日本、オーストラリアを除く先進諸国では中央銀行が政策金利を引き下げの方向で動いている中での動きだ。米国では9月18日に連邦準備制度理事会(FRB)が4年半ぶりに利下げ(5.25~5.50%→4.75~5.00%)を行ってから、米10年国債利回りは3.706%(9月18日)から4.386%(11月1日)まで68bbp上昇している。

 同期間での各国10年国債利回り上昇の状況は以下の通りである。

英10年債利回り:3.842%から4.455%(61.3bp上昇)

仏10年債利回り:2.931%から3.174%(24.3bp上昇)

独10年債利回り:2.202%から2.414%(21.2bp上昇)

豪10年債利回り:3.908%から4.613%(70.5bp上昇)

日10年債利回り:0.827%から0.935%(10.8bp上昇)

 なお、英イングランド銀行(BOE)は今年8月に準備預金金利を25bp引き下げており(5.25%→5.00%)、また欧州中央銀行(ECB)は今年に入り6月、9月、10月とすでに3回政策金利の引き下げを行っている(中銀預金金利4.0%から3.25%まで引き下げ)。一方で豪中央銀行(RBA)は昨年11月に25bpのキャッシュレートの引き上げを行って以降は金利据え置きを継続。また、日本銀行は今年3月にマイナス金利政策の解除に踏み切りその後7月に無担保コール翌日物レートを0.25%に引き上げ、12月の再利上げを伺う展開となっている。

 米長期金利上昇の原因は2つある。第1には米国の利下げペースが当初想定されていたよりも緩やかになるとの観測が浮上していることである。すなわち1カ月ほど前には年内に3回、来年は4回~5回の合計8回程度の利下げが織り込まれていたが、足元では年内2回の利下げ、来年末までには計5回程度の利下げ織り込みに後退している。第2に米大統領選でトランプ氏或いはハリス氏のいずれの候補が当選したとしても財政拡張的な経済政策を取ることが確実視されていることで米国債のタームプレミアム(期間長めの債券を保有する場合に投資家が求める上乗せ金利)が上昇していることにある。筆者はこのタームプレミアムは大統領選終了後にマーケットが落ち着きを見せ始める過程で徐々に低下していくものと予想している。

 次に英長期金利の上昇は利下げ時期が欧米に比して後ろ倒しになっていることもあるが、10月30日にリーブス財務相が議会に提出した秋季予算案が予想以上に高債務を見込んでいたことが市場で嫌気され英国債が売り込まれたことが背景にある。これを2年前のトラスショックになぞらえる見方もあったが、当時は金利上昇時に大型減税の財源を国債増発によって補うという無理筋のものであり、今回の予算案はそれとは事情を異にするものだ。それでも英10年債利回りは昨年10月以来の水準まで上昇している。

 またEU各国の長期金利も先に述べたように上昇しているが、これは米長期金利に影響された動きと見做すことが出来るのではないか。EUは加盟国の債務に一定の上限を設けるという財政ルールがあり、野放図な財政拡張には歯止めがかかるメカニズムがあることから米英に見られるような長期金利上昇は予想しづらい。

 もっとも財政拡張の観点から注意を要するのは日本である。先の衆院選はいずれの政党も政府支出の拡大を唱えるばかりで財政規律に配慮するような主張は全く見られなかった。10年国債利回りの1.0%超の水準は投資家にとって妙味のある水準のようで欧米で見られるような金利急上昇には至っていない。しかしながら我が国の自然利子率、インフレ期待を考慮すれば政策金利の1.0%までの引き上げは十分に予想され、どこかの閾値を超えたところで長期金利の上昇スピードが加速する時期はいずれ到来するのではないか。

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