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リスク回避の円買いは終わったのか?

2024年10月29日

市場調査室 室長 チーフアナリスト

溝上孝

 

 10月27日に行われた衆議院選挙の結果は自民党が247議席から191議席へ、また自民党+公明党の議席が279議席から215議席となり、石破首相が選挙前に示した勝敗ラインの与党で過半数(233議席以上)を割り込むこととなった。

 選挙後の翌10月28日の東京市場では日経平均は10月25日終値比691円高(1.82%上昇)で取引を終了、またドル円は朝方一時153.87円の高値を付け、10月25日のニューヨーク市場終値と比較して1.60円以上の円安ドル高の水準となった(その後28日のニューヨーク市場終値は153.25-30円の水準)。つまり与党大敗に対する金融マーケットのファーストリアクションは株高・円安であった。

 一部のエコノミストは「自公で過半数割れ」のケースでは政局の大きな混乱がリスク回避の円高及び大幅な株安を生じさせる可能性があると指摘していたが、現実は真逆の結果となっている。筆者も株式については外国人投資家を中心に先物での売りを仕掛けてくることで1000円以上の下落もあり得るであろうと覚悟していたが、一方でリスク回避により円高になるとの予想には違和感があった。

 理由は3つある。第1に日本は中国、ロシア、北朝鮮といった権威主義国家と境界を接しており、近年は台湾問題など東アジア情勢の緊迫化が著しいこと。第2に2010年代後半から日本はサービス・貿易収支の赤字国に転じており、需給面から円安になりやすい構造にあること。第3に有事の際に企業が海外にある外貨建て資産を売却して日本に還流させる、いわゆるレパトリエーションに伴う円買いが減少していることである。これら3つの要因により、為替市場ではリスク回避による円高が顕現化することが従来に比べて乏しくなってきたように思う。事実、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻、また2024年1月の能登半島地震の際には円買いの動きは見られなかった。以上のことから円高になった理由を事後的に説明するに当たり安易にリスク回避を理由にするのは戒めた方が良いのではないか。

 戦争・経済危機が発生したときなど市場のリスクが高まった時に買われやすい通貨のことを避難通貨という。スイスフラン、日本円、米ドルがそれに該当すると言われてきた。

既述の通り、日本円はその名に値しなくなってきているというのが筆者の考えだ。基軸通貨であるドルはさておいてスイスフランはどうだろうか。スイスフランの対ドル、対円の6カ月足チャートを見てみるとスイスフランが両通貨、特に円に対して著しく上昇しており、避難通貨として機能していることが分かる。

 円は需給構造の変化に加え、中国や北朝鮮の脅威が台頭し東アジア地域の地政学リスクが増したことで2010年代後半に避難通貨としての地位を明け渡していると解釈することが出来るのではないだろうか。

 

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